劇団B級遊撃隊第60回本公演「らんぷ」公演直前インタビュー
新美南吉×シェイクスピア×コロナ禍 異なる時代のクロスオーバーから生まれた新しい「らんぷ」
ー佃典彦さん(劇団B級遊撃隊)
佃典彦率いる劇団B級遊撃隊の記念すべき第60回本公演「らんぷ」。今作は新美南吉の『おじいさんのランプ』を原作にしつつも、南吉の『鳥右ヱ門(とりえもん)諸国をめぐる』やシェイクスピアの『マクベス』などを織り交ぜた不条理劇です。新美南吉とシェイクスピアと現代、すべてを混ぜた先にできあがるのはいったいどんな舞台なのか——今回の台本を手掛けた佃典彦さんに、「らんぷ」の見どころをお聞きしました。
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――まずはB級遊撃隊の簡単な紹介をお願いします。
佃典彦(以下「佃」) 1986年に名城大学演劇部のメンバーで旗揚げして、もう35年くらいです。ずっと覚王山にアトリエをもってやっていたんですが、4年前にアトリエを手放したんです。そしたら途端に世の中がコロナになっちゃって。今回の公演はアトリエを手放してから初の公演なので、3年ぶりですね。
――今回の作品「らんぷ」はいつ頃作られたんですか?
佃 実は「らんぷ」は2回延期したんです。作品自体はだいぶ前にできていたけれど、稽古に入る前にコロナで無理だとなりました。最初は文化の家ではなくて、もっと小さい劇場(円頓寺レピリエ)でやる予定だったので、それだとちょっと密になってしまう。うちのお客さんは高齢の方も多いので、そんななかで文化の家と一緒にやろうという話になりました。
――どうして新美南吉を?
佃 今回の出演者の一人の鬼頭卓見くんが、ぜひ新美南吉をやりたいと言ったのが発端でした。鬼頭くんは昔いっしょにやっていたんですが、実は一緒にやるのは30年ぶりぐらいなんです。B級が覚王山のアトリエを手放したタイミングで、また一緒にやりたいと彼から声をかけてくれて。そんな流れで、新美南吉をやることになったんです。
――チラシのあらすじを読むと、原作の『おじいさんのランプ』とはかなり様子が違うようですが……?
佃 そもそも僕自身が新美南吉をあんまり知らなかったんです(笑)。『ごんぎつね』みたいな代表作しか知らない。それで全集を借りてみたらものすごい量で……全然知らなかった。こんなに書いてるの?! ってびっくりですよ。鬼頭くんからは『おじいさんのランプ』と『鳥右ヱ門(とりえもん)諸国をめぐる』をやりたいって言われたんですが、鳥右ヱ門なんて聞いたことないでしょ? そんなのがいっぱいあるんですよ。『おじいさんのランプ』と『鳥右ヱ門諸国をめぐる』はまったく違うお話で、宮沢賢治みたいに、どことなく共通項がある感じでもない。まったく時代も違うし、一見すると別の人が書いたんじゃないかと思うくらい作品が違う。
最初はどうしようかと思ったけれど、今のご時世をからめて書いてみようかなと思った時に——女3人がPCR検査みたいなことを延々と続けている。汚い場所で——っていうモチーフがなんとなく浮かんだんですよ。そこに新美南吉を突っ込んでみようと。
――なんだかまったく内容の想像がつかないですね……。
佃 ご時世をからめるといっても、そのまま感染症をテーマにしたら面白くないので、謎の砂嵐が吹き荒れて、町はマスクなしでは外に出られない状況っていう設定です。場所は人里離れた田舎のバスの待合室にしました。都会はほぼ全滅していて、田舎の空気のいいところだけ残っているけど、バスも来ない。
町から逃れてきた女3人が、バスでどこかに逃げようとしたけどバスがちっとも来ないから、仕方なくそのままそこに住み着いた。けれど仕事もない。そんなときに、PCR検査をする仕事だけがあった。女たちが延々と検査をしている——すると新美南吉であろうおじいさんがバス停に転がって死んでいる!
――新美南吉が登場?! しかもそんな衝撃的な状況で!
佃 そんな風にしたら、新美南吉の話も入れやすいと思って。あとはおじいさんが喋り出したら劇的なことにひっぱり込める。で、そこにさらに物語をもう一個くっつけようと思ったんです。3人……砂嵐……荒野……マクベス! となって女3人は魔女の設定になった。だから3人の魔女がPCR検査をしているということにしました。PCR検査っていうのは感染症の検査ですが、本当は感染症じゃなくて人の運命を検査しているんじゃないかと思ったんです。検査結果で、こいつは大凶だ、みたいなことなんじゃないかって。
――毛色の違ういろんな設定が混ざってきて、驚きの展開になりそうですね……!
佃 作劇の方法として、「なぜ?」ってなるような展開のときに、そこに理由をつけるんじゃなくて、もう一個物語を突っ込む。そうすることで、なぜっていう理由をうやむやにしてしまうんです。次々に現象が増幅していくと、理由はどうでもよくなっていく。それが不条理劇の一つの書き方だと考えています。
3人の魔女が運命の検査をしているところに死体が1人転がっていて、それが実は新美南吉。そして魔女たちの前で童話が展開される——という流れです。シェイクスピアを加えることで、3人の女のなかに新美南吉が迷い込んでもそこまでおかしくないと感じるようになる。チラシにも書いたけど、「シェイクスピアと新美南吉を合わせてみたら、こんなヘンテコな童話ができあがりました」っていうところがやっぱり見てほしいところですね。
――想像のつかない展開が楽しみですね。ところで、実は文化の家でのB級の公演は22年ぶりなんです。何か思うところはありますか?
佃 22年ぶり!! そんなにやっていなかったとは思いませんでした。私もですし、劇団員も文化の家にはよく出入りしているので。文化の家に対して思うのは、やっぱりホールとしてすばらしいということですね。風のホールでやると、ぼそぼそとしゃべっても聞こえる。こんな小屋は東京でもなかなかありません。ホールのいろんな仕掛けが使えるのも文化の家ならではですね。今回もいろいろと仕込ませてもらう予定です。
佃典彦(つくだのりひこ) プロフィール
劇作家、俳優。1964年生まれ、愛知県出身。1986年3月、劇団B級遊撃隊を旗揚げ。06年に出版した『ぬけがら』で、『第50回岸田國士戯曲賞』を受賞。俳優として、NHK朝の連続小説『おかえりモネ』(20年)、ドラマ『半沢直樹』(20年)などに出演。